132人が本棚に入れています
本棚に追加
ここはとある祭壇。部屋は薄暗く、火がついた蝋燭が部屋の壁に沿って置かれている。
その部屋の真ん中には頭を丸めた初老の男が座って祈りを捧げていた。その男が拝む方向には大きな金色の像があり、その像は巨大な杖を右手に、玉を左手に持っている。
男はなにやら乾燥した葉のようなものを煙が出ている箱へほぐし入れ、右手で煙を踊らせるように動かした。
煙は上へと上がっていき、部屋全体へと充満する。
男は左側に置いてあった細い竹棒を何本も持ち出し、それを両手でジャラジャラと擦り合わせた。
しばらくしてぴたり、とその手を止める。その顔は興奮を伴い目はギラギラと輝いていた。
「これは…早急に陛下にお知らせせねば……!」
その男はすっと立ち上がり、ろうそくの火を消すこともなく、その場を後にした。
その足は止まることなくひとつの部屋へ向かう。その部屋は他の部屋とは比べ物にならないほど大きな扉がついており、その前には屈強な男が二人、剣を携えて立っていた。
「何用でございましょうか、神官様。」
右側の男がはや歩きで近づいてくる男にそう聞いた。
「皇帝陛下に急ぎ伝えねばならぬことがある。通せ。」
「少々お待ち下さい。……皇帝陛下、神官様がなにやらお話があるそうで。」
右側の男は扉をノックすると、中にいるものに聞こえるよう、少し大きめな声を出した。
「通せ。」
中からは、そう一言発せられた。
それを確認した二人の男は双方の扉を同時に開けた。
扉の向こうには大きな男が一人、大きく豪華な椅子に腰かけて書類を読んでいた。
「陛下、少々お話が。」
「どうした、神官。そんなに慌てて。」
「ははぁ。実は…『神の迷い子』がこの地に現れたそうです。」
「まことか!」
陛下と呼ばれた男はその顔を驚きに染め、歓喜に体を震わせた。
「して、その方はいずこに?」
「はっ。それがまだわからないのです。」
「…わからぬと。」
男は先程までとはうってかわって顔を不機嫌そうに歪めた。
「天からの知らせではこのバルト帝国のどこかに落ちてきたと出ましたが、それ以上は…。」
「まぁ、仕方あるまい。急いで探すのだ。どんな能力があろうと、あれは帝国のためになる。」
「はっ。承知いたしました。何としてでも見つけ出すよう手配いたします。」
そう言うと、神官と呼ばれたその男は一礼し、足早に部屋を出た。
残された男は不気味な笑みを浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!