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店の内装は白を基調とし、柱や梁を模した赤い装飾が施されていた。円形のテーブルが十卓以上並んでいる。この日は定休日で、店内にお客の姿は無い。一番奥のテーブルで師匠が彼を待っていた。コックコートに身を包み、長い髪を白い布でまとめている。そのもとに料理を運んだ。
「師匠、この一年、修業と工夫を重ねてきました。審査をお願いします」
師匠は料理を見つめ、そして視線を料理人に移した。
「盛り付けはいいわね。味はどうかしら」
レンゲで掬ってスープを口に含む。箸で具材のいくつかと麺を一口、口に運び、ゆっくり噛みしめる。念入りに咀嚼してから飲み込んだ。
「はいっているのは胡桃なの?」
「はい。味に厚みを出すために加えています」
「いい工夫ね。去年よりおいしくなっていると思うわ」
「ありがとうございます」
それでも料理人の表情は緊張したままだ。
「それでどう? この味なら私の審査をパスできる、そう思っているの?」
「それは……」
料理人は口ごもった。
「師匠にはまだ及びません。でも、そこいらの料理人には決して負けてないと……」
「なかなかの自信ね」
師匠は微笑んだ。
「じゃあ、一年ぶりに私の料理を食べてみる?」
「は……い」
料理人は不承不承に返事する。避けられない結末に向け、自分が追い詰められていることを自覚していた。それでも断ることはできなかった。
「お願いします」
「すぐ作るから待ってなさい」
師匠は一口しか食べていない料理をテーブルの上に残し、厨房に消えた。
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