おかえりなさいが言いたくて

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私と雪男は生まれたときからの付き合いだ。長いことお隣さんだった。歳も同じだし。保育園から大学まで、ずっと一緒のとこに通っている。腐れ縁。ただ、雪男は大学生になってから一人暮らしを始めた。私は実家に住んでいるままだ、引っ越す必要もないから。 「俺より、おまえのほうが親に心配かけてるだろ。実家暮らしのくせに、夜遅くまでバイトなんかして」 「あー、まあねえ。お金が必要だから仕方ない。女の子はなにかとお金がかかるのよ」 「だからって、単位とれなくなるようなバイトのやり方はまずいだろ。学生の本分は勉強だぞ」 「そっちこそ。学生の本分は勉強なのに、なんで女の子と遊んでばっかりなの?」 私の質問に、雪男はぐっと詰まった。が、すぐに目を伏せ、もうやめる、と小さな声で言う。 「もうやめるって何?学校を?」 「そんなわけないだろ。女の子と遊ぶことだよ。というかな、俺、まともに遊んだことないんだけど、女の子と!」 そうだろうね、と言いたかったけどやめておく。にやけそうになる口の端を必死でこらえて。 雪男は真剣な顔をして私を見つめる。 「なあ、おまえにだから言うけど……俺、呪われているかもしれない」 「はあ?呪い?」 「そうなんだよ。いい感じの子とデートすると、必ず、必ず幽霊が出るんだ!」 真っ青な顔をして、雪男は叫んだ。私は笑わないように、両手を背中に回し、自分の腕に爪を立てる。
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