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「今日も、デートだったんだ」
知ってる知ってる、という言葉を飲み込んだ。
「へえ、そうだったの?随分早いお帰りだけど」
時刻は十五時を回ったところだ。まだまだ日も高い。夏だし。蝉が鳴いているのがよく聞こえるくらいだ。高校生だって解散はもっと遅い時間だろう。雪男は暗い顔でそうなんだよ、とつぶやく。
「2人でラーメン食ってさ、ちょっと彼女のショッピングに付き合ってたんだけど。彼女がトイレに行って、戻ってきたら彼女の後ろにぴったり女が着いてきてるんだよ」
「えー、なにそれ。変質者?」
「そうだと思ったんだけど、このくそ暑いのに、真っ黒な長袖のワンピース来てるんだよ。くるぶしくらいまであるんだよ、スカートの丈。裸足だった」
「だから、変質者じゃないの」
もうだめ、笑いそう。でもこらえる、だって雪男に嫌われたくはない。
「彼女、その女に全然気づいてなかったんだよ!」
「えっ、ぴったりくっついてるのに?」
「彼女の短い髪が、その女の息でふわふわ揺れるくらい近かった、のに。俺がびっくりしてたら、彼女、どうしたのって首かしげてた。もうだめだった。帰ってきた」
「うっわ、最低。女の子置いてきたんだ?ないわー」
「いやあれは無理だって。おまえ見たら絶対そんなこと言えないから」
雪男は大きな体を丸めるようにしてがたがた震えていた。まあね、雪男の言うような光景を実際見たら、私だって泣いて逃げ出すだろうね。
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