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「この夏祭りが終わったら、引っ越しだよな。」
仁はいつも通り、ソーダーアイスをふたつに割る。
「そうだよぅ。ねえ、何かないの?お別れのさあ、プレゼントとかさ。」
恵はいつも通りの明るさで、元気に言い放った。
慣れ親しんだ町と、明日でお別れ。
幼なじみの仁とも、明日でお別れ。
仁はゆるく笑って、アイスの片割れを差し出してくる。
「はいよ、プレゼント」
「・・・えぇ?このアイスがプレゼントだって言いたい?」
「何か、問題でも?」
「いつももらってんじゃん。そうじゃなくって、もっと特別なさあ・・・」
「いつもと同じ、が、いいだろ?」
「え・・・」
「俺、毎日メグにアイスプレゼントしてきただろ?今日が最後って、思いたくないじゃん。」
「・・・」
ニッとわざと歯をむき出して、仁は笑った。
返事をしたいのに、胸がいっぱいになって声がつまってしまう。
アイスを受け取る瞬間に触れた指先。
いつも通りアイスをくわえている幼なじみの、仁。
恵は口の中でシャリッと溶ける感触をゆっくりと味わった。
不意に、目の前の風景がかすむ。
恵は慌てて、頭につけていたキツネのお面をかぶった。
「・・・ったく。」
思いがけず近くに仁の声を聴いた、と思った。
その瞬間、初めて抱き寄せられた肩。
「また・・・、一緒にアイス食おうぜ?約束な。」
遠くで祭り囃子の音が聴こえる。
お面の隙間から、白い猫がゆっくり階段を下りていくのが見えた。
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