まろうど

601/839
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/839ページ
 やがてするりと床へ落ちた、折り紙の手裏剣。 「何が起きたんです? 若旦那、何をやらかしました?」 「いえ、私は何も……ただ折って作っただけで」  健斗が問題の折り紙を拾い上げて、眺めたりひっくり返したり、曲げたりねじったりして感触を確かめる。白露は壁の跡をしげしげと見やっていた。 「ごく普通の折り紙ですねえ。何か特殊な投げ方をしました?」 「そんな知識も技術もありませんよ」 「啓明すげえ!! どうやったら刺さるんだ!? 俺もやってみたい!!」  問いとともに手裏剣が飛んできたが、人間や壁やカーテンに当たってぽとぽととと床へ落ちる。 「いや、折り紙は壁に刺さったりしませんから」 「じゃあ、これは何で刺さったんだよー」  一体何が起きたのか。啓明にすらわからないのだから、ほかの誰かにわかるわけがない。 「若旦那。ものはためしで。もう一回作って、投げてくれません?」  健斗に促されて、啓明はもうひとつ手裏剣をこしらえた。 「……念のため、道場へ行きましょう」  これ以上部屋を傷めるわけにはいかない。健斗や白露に有無を言わせず、啓明は折った手裏剣を持ってさっさと部屋から出た。  道場の壁はかつて白露が破壊して以来、かなり頑丈に修復されている。それでも壁に向かって投げるのは気が引けた。 「啓明、早く早く!」  白露が目を輝かせてせかす。 「でも……」 「これだったらよくないですか? 本物の忍者っぽくていいでしょ」  健斗が古くなって廃棄する予定の畳を軽々と持ってきた。 「あ。はい。それなら安心できます」  畳を壁へ立てかけてもらい、五メートルほど離れ、軽く振りかぶって啓明は投げた。  ……ズバン。  またも、有り得ない音が響いた。
/839ページ

最初のコメントを投稿しよう!