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広域環境保護局は、各地に在る世界保健機構に属した組織なのだと。少なくとも世間の認識もマスターの認識も私の仕入れた知識も、そう述べている。各国に支局が置かれ、この水戦争と環境汚染に尽力している……らしい。
疫病対策まで、医者ではないマスターの仕事なのかと言えば、広域環境局が対応しているのなら、そうなるのだろう。専門でなくとも意見は出させられる。
環境破壊や化学汚染は、場に適した疫病を生んだ、と言うことなのだろうか。
用途は違うが、私を導入してみては、と少ない語彙を継ぎ接ぎして、また接続済みのモニターに出して、マスターに進言してみた。カメラアイの捉えるマスターは驚いた顔で「きみを」と問うた。私は「イエス」と返答した。
私は本来観測用AIだった。開発目的の汚染観測とは違うけれど、感染観測としても転用は出来ないだろうか、と考えたのだ。感染観測して行けば、原因や感染経路の特定にもなって対応出来るかもしれないって。
マスターは眉を寄せ難しげな表情をすると、ふっと緩めた。
「うん、駄目かな。きみは容量が大き過ぎて、また、構造が繊細過ぎて、汎用が難しいって判断をしているんだよ。独立単体で動かすにも廉価版を作るにしても、お金がねぇ……まずその運営に漕ぎ着けるまでの開発費が掛かっちゃうよ」
苦笑して却下された私の提案。当初の予定より私は容量も構造も何も彼も変わってしまった。軽量で単純な構造を目指したはずが、計画が立ち消えたことで勿体無いからと、マスターがあれこれいじったせいだ。
趣味に転化したら、際限無くなって、なんて言い訳をつらつら連ねていた。同僚に。無論、同僚は怒ったそうな。でしょうね。
感情の育成とか、人格の形成なんて狙うから、そうなるんですよ。どれだけ私のために増設しているんですか。部屋、狭くないのに半分以上機材で埋まっていますよ。
「……」
……もしも。
もしもこのとき、私が運用されたら。
私は、……。
気付いたのは、奇病が流行って、五箇月と二十日、十五時間四十三分三十二秒経ったころ。
マスターは連日連夜、広域環境保護局の対策本部に詰めていた。そのマスターが、ある日急に帰って来たのだ。
大量の水などをカートに乗せて帰って来たマスター。私は久し振りの帰宅に、「おかえり、マスター」と迎えた。だけど。
「ただいま……」
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