アリッド

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   嗄れた声で、私に応じるマスター。変だと思った。だって。  感知した体温が、平体温から程遠い高さ。  チェックした肌の表面が、乾いている。指など、一部罅割れて血が出ている。巻かれた包帯は、血が滲んでいる。 「マスター、マスター、マスター」 「大丈夫」  唇すら、かさかさでは無いか。  これは……。  それから、マスターは何も喋らなかった。  マスターは、私の諌言も忠告も、懇願も、無視した。  無視して、何かを作ったり、私をいじったり。  私は、休んでと言ったのに。  たまに大量の水と薬を飲んだり、目薬を点したり、リップを塗ったり……乾くのだろう。  なのに、手を休めなかった。 「マスター、マスター、医療機関に、医師に、」  通報しようと思い付いたときには、私は外部との接続を切られていた。 「……もう少しなんだ……」  私の訴えは、届いているのだろうか。うわ言のみたいに、零すマスター。何を作っているのか。増設された機器の裏で、唯一空いていると言っても過言では無いマスターのベッドの上で行われていて、私のカメラアイからは死角に当たって窺えない。  着々と、何かを作っている。水は減っている。  最後のマスターを、私は知らない。  マスターが途中で私を休止状態にしてしまったせいだ。  ゆえに、私はマスターがどうなったのか。  生きているのか、死んでいるのか。  あの疫病は特効薬が出来たんだろうか。  マスター。 「おかえり」 「おかえり」 「おかえり」  もう一度、言える日は、来るだろうか。  私は、暗い暗い中で、ずっと考えていた。  ねぇ、マスター。  あなたの話が、聞きたいです。 「─────わっ、起きた!」  感知センサーで反応した私を起動させたのは、知らない褐色の肌の、少年だった。  マスターはいなかった。どこへ行ったのだろうか。私は、視線を落とした─────“落とした”?  私は自らの“頬”に触れる。柔らかい。私は己の“手”を見た。五本の指だった。マスターが操るものと同じ形だった。首へ指を這わせる。指は感触を伝えた。喉が「ぁ……あ、……」震えた。  そこで、初めて私は自身がボディを与えられていることに気が付いた。  
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