アリッド

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「……あのさー」 「え?」 「こんなところで寝てるとか……あんた、何者なの?」  少年が怪訝な表情をした。怪しむのはもっともだ。私は自己紹介をしていないことを思い出した。 「私は、観測用AIとして造られました。運用は終ぞ、されませんでしたが……。マスターからいただいた個体名はアリッド」  私が名乗ると、少年が目をこれでもかと見開いた。 「AI? ロボットってこと? ……見えないけど」  信じられないのも無理は無い。ロボットと言えばこの世界では鉄や合金の硬い機械だろう。私の体は殆どが有機物────植物に似た組織で出来ているようだ。  私がそう告げると、少年は「ああ、じゃあ『ドール』と同じなんだ」と得心した様相で頷いた……“ドール”? 「『ドール』とは……」  私は質疑する。昔なら自分で調べられたのだけど、この体では不可能らしい。私からの質問に、少年は再度目を丸くした。 「え、AIのくせに知らないのかよ。……まぁ、この南半球のちっさい国で起き立てじゃ、無理も無いか」  少年から教えられた『ドール』と言う存在は、元は極東の島国で生まれた人工生命体のことだった。表向き生体機械と位置付けられているが、その性能と高度な知能、豊かな感情は“新人類”と呼ばれる程だったとか。  今より水も資源も在った時代の、産物だった。 「特殊な有機電脳で、インターネットとか普通の通信は規格が違うから機器を使わないと使えないとか……とにかく、人間に近いらしい」 「じゃあ、この体は……」  その『ドール』の体を利用しているのだろうか。私は容量が大きいけども、少年の説く『ドール』の特殊な有機電脳ならば耐えられたのだろうか。私が自己の体をまじまじ見ていると少年が言った。 「……ま、今日日『ドール』と人間に差は無いよ。『ドール』のが人間より多いかもね」  少年曰く、現代の人間は『ドール』の技術を用いて辛うじて生き永らえているのだと言う。 「一般的な人間との違いは、『ドール』には消化器官と生殖器官が無いんだと」  人類は苛酷な環境に順応すべく、体の改造を余儀無くされた。遺伝子操作を行い、葉緑体を持つに至ったのは序の口で、有機素材で出来た人工の臓器を移植したり、一部機械化したりで延命しているのだとか。  
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