アリッド

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「母ちゃんの胎にいる状態でまずされるのが、ゲノム編集と葉緑体の移植だって話。俺もされてるよ。酷いところでは、生まれてから人工心肺を入れたりするんだ」  酸素、うっすいからね。少年が笑った。 「普通だよ。普通」  少年は肩を竦めて「ここまでしか知らないけど」と教えてくれた。  私は、頭の回転が鈍くなるのを感じた……きっとこのフリーズに近い状態を呆然と呼ぶのだろう。そう、呆然としたのだ。 「普通……“常識”、ってこと?」 「まーね」  私が知る世界とはだいぶ変わってしまった。私は「あの、」あることに、感付いてしまった。 「何?」 「今は、その……いつなのでしょうか? 何年の、何月何日……?」  今は、いつだろう。私が知る世界は、汚染と温暖化で少なくなった水と資源を取り合って、戦争していて、疫病が……。私は、ようやく周囲が荒れ果てていることに気が付いた。  屋内なのでそこまでではないものの、ところどころ私のために増設された機器の隙間で植物が生えていたり埃に塗れていたり……どう見ても、数日数箇月と言った光景ではない。 「えーと……今はねー」  少年から私は、現状の情報をインプットされて行く。  私が休止状態にされてから、実に十年と八箇月……ええと、ともかく十年以上が経過していた。聞かされた私は、眩暈を起こした。  ぐわんぐわん鳴るスピーカーに神経を落とされた感覚だった。  コレがショック、だろうか。  少年の証言から推定して、世界は、私が休止して間も無く崩壊したらしい。  例の奇病は、元より乾いた世界では、風に煽られた火の如く、猛威を振るった。水は足りず人々は飢え、環境破壊は取り返しの付かないレベルまで来たのだとか。  人口も、人体発火の奇病が拍車を掛け、こっちは阻害剤など阻止する方法は見付けたものの、様変わりした世界では機械化に頼らねば満足に生活も出来ないため、減る一方だそうだ。勿論、広域環境保護局は、破綻した。 「人類は風前の灯ってヤツさ」  少年は、こう締め括った。 「あの、……」  少年の説明を静聴していた私は声を上げた。少年は「あ、」何かに気付いたみたいだ。 「俺、『ゲイン』ね」  親指を立てて己を指した。彼の個体名(なまえ)らしい。 「ゲイン……他には誰かいませんでしたか?」 「え?」 「私の、マスターがいたはずなんです」
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