アリッド

9/11
前へ
/18ページ
次へ
「今の人間てさ、だいたいが過去の遺物から拝借して生活してんの。泥棒みたいなモンになっちまうんだろうけど」  生きるため仕方ないことだろう。責められることでは無いし、ゲインも納得しているはずなのに、横目で捉えたゲインは仏頂面だった。どこかで引け目を感じているのかもしれない。 「一応さ、もし遺体が在ったら埋葬もしてるんだぜ? 砂ばっかりになっちまってるけど」  地面は高温で焼かれ乾くため、殆どが砂に覆われていたが、弔うために遺体は砂に埋めるのだと言う。昔と異なり、今の人間は材質が違うせいか、焼くよりスタンダードになったそうだ。ゲインの話を、私は涙の止まらない中聴いていた。 「……んでさ、」  一拍置いて、ゲインが言った。 「この廃墟さ、セキュリティが頑丈な部屋が一つだけ在るってんで有名だった訳。 “開かずの部屋”ってさ」 「開かずの……」 「そ。セキュリティの堅固さが尋常じゃないって。で、腕試しで俺も来た訳」 「……」 「準備滅茶苦茶してさー来たんだけど、セキュリティ突破しても、何か重しされててさ。抉じ開けたら、すっげー機械でバリケードされてたの。ここいらに在る機械と同型だから同じヤツかな。何に使われてたか知らないけど」  こんこん、と、横に在る機材をゲインはノックした。ここに在る機械、と言うことは、私のために増設された機械の一部だろう。私が体を移したから用済みになったのをバリケード代わりに活用したのかもしれない。……マスター。  それじゃ、自殺じゃないですか。  どうして治療してくれなかったんですか。  どうして生きていてくれなかったんですか。  私、やっとマスターの話聞いたら返せるんですよ? 『会話』が出来るんですよ? 「おかえり」だけじゃなくて。  もっともっといっぱい、話したかったです。  落ち込む私を余所に、ゲインは話し続けていた。 「けど、アリッド見付けてわかったよ。  アイツは、アリッドを守っていたんだな」  自分が死んだらどうなるか、わからないから。私は背後のゲインを見た。  ゲインは黒い煤を、マスターだったものを真っ直ぐ見詰めていた。 「駄目だって悟ったから、セキュリティを強固にして、バリケード作って、守ってたんだろうなぁ」  私が休止状態になったあと、マスターが死んだあと、世界は混乱した。暴動も起きた。略奪も、傷害も、殺人も。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加