明日へ進む道

3/22
前へ
/32ページ
次へ
 だからこそ、幾つもの未来を掴むことができる名を与えたいからこそ、“明日”を名前に願いを込める。  自分達の願いを。  カーステレオをつけると、丁度、夕方のニュースをやっていた。速報という形で、夕海町で原因不明のガス爆発が頻発しているということ。そのニュースに矢子は苦笑いを浮かべるしかなかった。 「まるで、二十六年前の再現ね」  二十六年前の冬にも夕海高校で図書室が爆発するという謎の事件が起きた。あの件に関しては後に努から外国のエクソシスト、現在は日本風に改名した拓郎と輝葉が引き起こしたことと聞かされた。色々、世間一般に知れたらマズイことは何かしらの事故や自然現象ということで、報道操作をしたらしい。とはいえ、スマートフォンを開けば、ツイッターやLINEなど、SNSでは夕海町で起きている現象が中継でアップされていた。夏休みで暇を持てあましていた学生でも撮影していたのだろうか。建物に亀裂が走ったり、中学校の校庭に地割れが起きたり、日暮では民家が壊される被害までもがアップされネット上に拡散する。いずれ、騒ぎが大きくなり、あと数十分もすれば県警から機動隊などが到着するかもしれない。もっとも、それは何も知らない行政がどの程度の危機でとらえているかによるが。  金属が擦れ合う音が聞こえた気がした。  矢子はコンビニで買ってきたエチケットパイプを口にくわえる。タバコはやめたが、今時でも時々、口元が寂しくなるのでタバコの代わりにエチケットパイプをくわえるようにしている。一度、大きく息を吸いミントの香りを口いっぱいに取り込むと、それを吐き出す。タバコとは違い煙りを吸ったという感覚はなかったが、ミントの強い香りが喉と鼻を刺激する。矢子は顔を上げ、石段の先にある夕海神社の鳥居に目をやる。現世にいる自分にはハッキリと見聞きすることはできないが恐らく最後の戦いが始まったのだろう。 ----矢子先生。娘を・・・明日香を助けてください。  夏休みでも仕事はあり高校の保健室で、部活動などで日射病や熱中症で運ばれてくる生徒達を診ていた。夕暮れ時にもなると、部活に来ていた大部分の生徒は帰路に就く。残っているのは、来年の受験に供えて図書室で勉強している生徒ぐらい。仕事も大体片づき、定時も過ぎていたので矢子は帰る準備をしていた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加