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そんな時だった高校の敷地と隣接する夕海中学校から大きな振動を感じたのは。保健室全体が一度、大きく揺れ矢子はとっさに机にしがみつくことで耐えた。音も聞こえた。何かが爆発するような音。
矢子が真っ先に思ったのは、地震。東日本大震災が起きてからまだ、数年しか経っていない。気象庁でも余震への警戒を促していた。奥羽山脈を挟んでいるとはいえ全く地震がおきないとはいえない。現に、東日本大震災の十数年前には隣の県が大きな地震に見舞われたことがる。ここ近年、日本では数年おきに大きな地震が起こるのは当たり前になりつつある。それだけに警戒してしまう。
ただ、今回は違うらしい。手持ちの携帯電話が鳴ってはいなかった。このぐらい、大きな地震が発生したのならば緊急地震速報が出されるはず。けれど、揺れを感じてから一分以上が経過しても鳴る気配すらない。次に思いついたのは逢魔の存在である。逢魔がもしかしたら、夕海中学校に現れたのかもしれない。夕海中学校といえば、静佳の妹である夢葉が通っている。
(夢葉ちゃんが逢魔に襲われたの?)
嫌な予感が頭を横切る。元々、逢魔を狩る一族の末裔である彼女。最近まで死者や逢魔を見ることが叶わず、後方支援に回っていたが、夕刻ノ魔の事件をキッカケにやっと、力に目覚めた。逢魔からしてみれば、新人も同じ。何か理由があって襲われても不思議ではない。
鞄に一度はしまった携帯電話を取り出し、兄の静佳にでも連絡しておこうかと思った。
慌てふためく矢子の頬を風が靡いた。保健室のカーテンが靡いたのは。最初、矢子は風か何かかと思った。日本海側に面した夕海高校は潮風がよく吹くので、夏場になると西側の窓を開け、風を取り込むようにしている。その風が、カーテンを靡かせたのでは。しかし、カーテンは内側に向かって靡く。海からの風なら校庭の方に向かって吹くはずなのに。
「・・・久しぶりね。優香さん」
矢子はカーテンの裾に見え隠れする優香の幻に笑みを浮かべて語りかけた。学生時代ならまだしも、あれから二十五年も過ぎている。彼女が亡くなった時を考えても、お互いにいい年になった。いつまでも、近い年感覚で会話することもない。だけど、自然に優香は語りかける。
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