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「殿、私に行かせてください」
城は囲まれて退路はない。それなら”私”を使うべきと、生まれた時から仕える殿に進言した。
私が”それ”に選ばれのは偶然で、でも、それを殿を守るのに使うのは必然だった。
「しかし・・・」
と渋る殿に、周りは私の進言に賛成の模様。
「殿、それしか私達が生き延びる術がありませんわ」
ひとりのきらびやかな姫が殿の腕を取る。姫は殿の許嫁で、私とは正反対の存在。顔を伏せたままの私を一切見ないで、姫は殿の袖を引く。
「殿、ご決断ください」
「・・・お前はそれでいいのか」
殿の振り絞るような声に、笑みを心で浮かべる。ただの忍びに、手下のひとりに過ぎない私にも向けられる、無条件の優しさ。そんなところが好きだった。全てを心にしまい、それらを刃に変えて、私は頷く。
「お任せください」
「絶対、生きて戻れ。それ以外は許さんぞ」
優しい約束を顔をさらに伏せることでかわし、退路を守る為、ひとり刃を抜いた。
目の前には敵方の忍び。血に濡れた刀を手に、隙なく立っていた。
「・・・お前がここの忍びか」
「・・・・・」
答えない。殿が逃げ延びるまでの時間稼ぎ。相手はきっと、私より強い。でも。
素早く肉薄して刀を振りかぶる。それを受け止められ、蹴りで相手との距離をとる。
「あれ、お前・・・」
忍びが声をあげる。私の蹴りは痛くもなんともなかったらしい。軽かったか。
悔しさに眼光きつく相手を睨むと、相手が刀を小脇に両手を挙げた。
「”継承者”か?」
どうやら同郷の者らしい。腰を軽く落として刀を後ろ手に持ち替える。なら手の内はほとんどばれているのだろう。油断が一切出来なくなった。
相手の忍びは不躾に上から下まで私を見ると、ふうん、とひとつ頷いた。
「女っていうのでお前、有名だぞ」
「だからなんだ。忍びに女も男もあるか」
隙を伺いながらそう返す。そう。忍びに生まれたのだ。性別なんて関係ないし、男には男の、女には女の忍びの在り方がある。それを理解しないのは男社会の弊害だが、それで相手を油断してくれるのならそれだけ任務の成功率が上がる。それが、私の仕事なのだ。
忍びは好ましそうにその答えに頷きを返して、からりととんでもないことを言った。
「お前さ、俺の女にならねぇ?」
その瞬間無言で刀を突きつけた。
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