後編

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          ☆   「――ッ! 吹奏楽部の外練……素晴らしいな!」  キャンパスに描かれた美少女は質感を伴い、現実のモデルの云十倍は美化されて天使の微笑みを浮かべている。 「そして朝日に照らされ、光輝くトランペット!」  確かにトランペットだが、どこかサビついているみたいで随所で赤色が使われている。  血みたい。 「朝露に濡れる芝生と、素敵な朝を迎えて愉快に飛び回る小鳥たち!」  かつて、核戦争があった――、というモノローグがつきそうな灰と砂色の大地。地割れから飛び、現れる凶悪な羽を携えた悪魔の化身たち。 あまりにも先輩と見える世界が違いすぎて、自分の色覚が狂っているのか疑いたくなる。 「ふはは、これは傑作だぁあぁ!!」  こうして、破滅した世界を憂いた最後の人類が、天使に変わって錆び付いたラッパを鳴らす擬似アルマゲドンを表現した作品が生まれた。この世の悪意と欲望を背負って顕現したこの絵画はある種、人類全てを救済するための犠牲となるのだ。 「って感じの作品ですね、コレ。」 「アンリマ○じゃないぞ!? なんだ、その若干カッコイイくだりは! 」  先日の会話から、私と先輩は部活動の終わりに、各々の作品について感想を言い合うようになっていた。ちなみにさきほど、私の作品をみた先輩は。 『この絶妙な彩色! オーロラの下で力強く咲く一輪の花ようだ!静止画であるはずなのに見直すたびに違った絵に見えてくる。これはまるで見たものの心の様相を映し出す鏡のような』 『あ、昨日揚げ物作ったときに、思いついた作品ですよ。気持ち悪いくらいに七光しますよねー油の表面って。 あと七光といえばゴキブリですね、ゴ・キ・ブ・リ。ぬるぬるの甲殻が光にあてられて……』 『言うな。もう何も言うな!』  怒って若干いじけたようになった先輩はしばらく口をきいてくれなかった。
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