かき氷

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かき氷

 頭上に真夏の日差しが遠慮なく降り注ぐ。  こんな日は、クーラーの効いた部屋に一日こもっていたいものだが、訪問販売セールスマンの俺にはその好待遇は与えられない。  汗だくの顔に笑みを貼りつけ、各ご家庭を回る外回り。成果はほぼ上がらず、体力だけを消耗する俺の目に、その涼し気な光景は飛び込んだ。  日除けのされた縁側に幼稚園くらいの子供が座っている。傍らには、イチゴ味らしき、赤いシロップのかかったかき氷。  俺もかき氷を手に日陰で涼みたいもんだ。  そう思いはするものの、現状、その望みは叶う筈もなく、目に映る憧れの光景に背を向けて、俺は真夏の炎天下を歩き出した。 * * *    粘りに粘ったものの、やはりセールスの収穫は上がらず、少し傾いてきた日差しの中、とぼとぼと会社に向かう。  その途中、昼前に見た家の傍らを過ぎた。  相変わらず、縁側には後ろ姿の子供がいる。その傍らにはひんやりと涼しげなかき氷。  実に羨ましい光景だが、妙な違和感が俺の足を止めた。  記憶力にはそこそこ自信がある方だ。それが確かならば、午前中と今とで、子供の位置が全く変わっていない。のみならず、かき氷のシロップのかかり具合や溶け方すらもまるで一緒だ。  子供は同じ場所に座っているだけ。かき氷も、たまたま同じように溶けかけているだけ。  そう思えば思えなくもないが、違和感が拭えない。  だからもう少しだけその家の庭を覗き込んだ瞬間、子供の姿がぐらりと揺れた。  かき氷の器の向こうに子供が倒れる。それから一瞬だけ間を置いて、濃いピンクのシロップがかかっていたかき氷は、器までもが真っ赤に染まった。…そして、さらに数十秒後、子供の姿もかき氷も総てが俺の視界から消えた。  ご近所に聞いて回れば、もしかしたら、この奇怪な光景の理由は判るかもしれない。でも、もういいよ。  かき氷が真っ赤に染まった瞬間、俺の全身はぞっと冷えた。これ以上寒い思いはしなくてもいい。  会社に帰ったら、この時期だけど、熱いコーヒーでも飲もうと思う。 かき氷…完
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