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ゾンビのような足取りで窓際のシングルベッドまで歩いていき、今朝きっちりメイキングした白のシーツとネイビーの掛け布団を見つめる。普段はシャワーを浴びて身を清めたあとにしか身体を下ろさないその場所だ。しかし今日ぐらいはいいだろう。健は顔の上の銀縁眼鏡を外し、それを片手に持ったままベッドに倒れ込んだ。
分厚いマットレスが、身体の重みと疲労を受け止めてくれる。ひんやりとして柔らかな肌触り。嗅ぎ慣れた匂い。呼吸をするたびに少しずつ、全身の力が抜けていく。
しかし。
静まり返った肉体のなか、下敷きにされた心臓だけは、布団との間でどくんどくんと脈打ち続けていた。弱った身体を脈動で強く揺り動かし、決して休ませまいとする。
うるさい。
涙が出そうになる。脈動は安らぎを蹴散らし、痛みと興奮と罪悪感を忘れさせない。自分は今夜、取り返しのつかない一歩を踏み出した。一体何歩目で足場が崩れ、奈落の底に落ちるのだろう。
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