1

4/6
前へ
/20ページ
次へ
「はっ」  嘲笑が零れる。  重くなった瞼を下ろし、深く長く、溜息のような息を吐き出した。  私のことなんてたいして知らないくせに。  貴方は。  ……目を開ける。すっと身を起こして、手にしていた眼鏡を掛けた。指紋で曇っている。構わない。ベッドを下り、ソファの上のジャケットとネクタイを拾い上げる。ジャケットは軽くはたいてハンガーに掛け、壁面に五連並んだハンガーフックの、一番右に吊る。ネクタイは、一番左のフックに吊ってあるネクタイ掛けへ。  深呼吸をした。そして心に決める。  やめた。それがいい。やっぱり駄目だ、あんなのは。  道を踏み外してはいけない。  朝起きたらぜんぶ、無かったことに。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加