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 トークアプリの着信が一件と、メッセージが一言。小田村である。 『無事に帰れたかい』  健は反射的に画面をオフにした。そして押さえつけるように胸に押し当てる。  苦しい。熱がともる。また心臓が騒ぎ出す。  なんて罪深いことをする……!  吐き出した息が情けないほど震えていた。そこに声が乗り、感情が乗り、もう……止められなくなった。  パジャマの袖で眼鏡の下を拭う。何度も。何度も。止まらない。止められない。  止まらなくては! 止まりたくない!  せめぎ合う激情は、どちらも本心だった。身を焦がす恋というものを、健は三十五年の人生で初めて知ったのだった。
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