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「じゃあ、行ってきます、ママ」 「行ってらっしゃい。気をつけてね。パパによろしく」 「うん」  僕とママがこちらに来て初めての、パパに会いに行く日だった。ママはママの家に行くので、僕だけがパパに会いに行く。パパが住んでいるはずの家までの道は久しぶりだけれど、目印があるからきっと分かる。そう思って僕は出発したのだけれど。  目印はなかったけれど、僕は家に辿り着けた。でも、そこにパパは住んでいなかった。僕たちが昔使っていた家具も全部なくなっていた。どういうことか、パパがどこに行ってしまったのか、話をしようにもその人たちは僕の声を全然聞いてくれない。だから、僕はイタズラをすることにした。その人たちが出て行ってくれるまで。本当はパパが僕に言ってくれるはずだった「おかえりなさい」を、僕からパパに言えるようになるまで。  新しくはないけれど、よく手入れをされていて気持ちよく住める家だったんですよ。それがなんだか理由もなく軋んだり物が落ちたり、閉めたはずの扉が開いていたり。なんだか気味が悪くってねえ。だからといってそれだけで新しい家を買えるようなお金はないし。前に住んでいた人は、何も言ってなかったんですか、本当に。ああ、でもそうかもしれません。私たちが住み始めて、すぐにそういうことが始まったわけじゃなかったので。そうですねえ、三ヶ月も前、お盆の頃が始まりだったような。え、前の持ち主の方に連絡してもいいか。別に私は構いませんけどね。向こうが気にしていた。イタズラっ子だったから。はあ、よく分かりませんがそれであちらさんの気が済むんなら、いいですよ全然。はいはい、それじゃ失礼します。  やれやれ、もう。何かそういうモノが来ているんだったら、是非「おかえりください」ですよまったく。
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