ガラスの向こうに立つ影は、

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通話を終えて少しするとマコの家から車が出ていくのが見えた。 すぐそこでばったり会って怒られながら帰ってくればいい。 そう祈りながら車が戻ってくるのを窓の外を眺めながら待っていた。 ――けれどその日マコが帰ってくることはなかった。 見つけられなかったおばさんは「本当にどこで遊んでるんだか」と、そうであるよう願い呟いていた。 本人から連絡も何もないまま、空が晴れ渡ってもマコは帰ってこない。 自転車置き場にはたくさんの自転車が並んでいるが見慣れたあの車体は見当たらない。 町ぐるみで探しているし、もしかしたら家出かもしれない。とか、何でもいいからとにかくマコが無事であるよう皆祈っていた。 そのまま2週間、1か月、2か月……何も進展しないまま時間だけが過ぎていく。 雨の季節が過ぎ去って、今日は今年1番の暑さになるらしい。 散歩に出かけるとすぐに汗だくになった。 肌に張り付くTシャツの裾をつまんで空気を送りながら、なんとなく辺りを見回して歩く。 薄々気が付いている。きっともうマコには会えないんだろうと。 それでもまだ、ひょっこり顔を出さないか。木々に隠れていきなり腕を掴んで脅かしてきやしないかと。小さく期待をしてしまう。 本格的には捜索しなくなっても同じように周りを気にする人たちはいる。 そして誰かが見つけてしまった。 アイツの鞄と、俺の貸した折り畳み傘を。 傘は川沿いに出来ていた土の山に刺さっていて、鞄はそれから少し離れたところに半ば埋まっていたそうだ。 あの雨の日に土手が少し削れていたらしいから、きっとそこから出た土なんだろう。 乾いては雨に濡れてまた乾き、少しずつ動いてようやく見つかったのだろうか。 それでも自転車もマコも見つからないから、きっと落としていっただけ。早く行こうと慌てていたのね。とおばさんが小さく笑った。
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