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今は夏、あの日と同じ、暑い夜だ。
「ミキちゃん、助けて」
どうして俺のところへ来るのか。
おばさんたちはまだマコを探している、生きていると信じているから。
だから諦めてしまった俺のところへ来たんだろうか。
「寒いよ」
何をしに来たんだ?
迎えに来るのか?一緒にいこうと。
「ねえミキちゃん、居るよね?」
考えているとマコは確認するよう俺に問いかけた。
そして返事をしなくても、勝手に喋りだす。
「やっぱ無茶するもんじゃないね、風邪ひきそう」
びしょ濡れだ、と震えた声。
何故か髪から滴る水が見えるかのようなシルエットを浮かび上がらせながら、こんなに暑いのに寒いと訴える。
「お前……自分ち帰れよ」
どうしたらいいのかわからず、ようやくそんな返答をした。
「だってうちなんでか誰もいないんだもん」
そりゃそうだ、まだお前を探してるんだから。
目を凝らすと暗闇には少しぼやけた程度の制服姿のマコが見える。
今の季節じゃ誰も着ていないブレザーを羽織っていた。そもそも今は夏休み。
「着替え貸して?いっそタオルだけでもいいからさ」
「自分ちのカギは?」
いつも持ち歩いていたはずのカギの有無を尋ねる。
「落とした。……あれ、なんか鞄自体無いや」
何も無い。と言いながらそれを証明するようにすりガラスに手をついた。
肌から伝う水滴が下へと流れ落ちる。
「あー、傘も落としちゃったみたい。ごめん」
いつものような会話に涙が出そうになる。
本当にただ帰ってきただけなんじゃないか?そんな期待を抱く。
「……いいよ別に、あれ古いし」
俺まで震えた声になると何かを感じ取ったマコがこっちの心配をしてきた。
「どしたの?やっぱ大事にしてた?それとも具合悪い?」
「なんでもない」
ふーん?と訝しげな返事に今度は笑いそうになる。
ホントに、もう、いつも通りだ。
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