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そうしてゆっくりと戸を開けると、そこには見慣れたマコの姿があった。
声のように身体も震えていて寒そうだ。
開けてよかったと思いながら早くマコが中に入れるように腕を動かす速度を上げる。
これが不可思議な事だと言うのなら、きっと神隠しにでもあっていたんだ。
急ぎすぎて、どこか変な場所に迷い込んで帰ってくるのに季節を飛び越えてしまったのだろう。
あの話とは違う何かだったんだ。
だってマコが家の中に足を踏み入れても何にも起こらない。
ぽたぽたと全身から垂れる水がコンクリートの床に黒く染み込んでいく。
影に馴染むその色が確かにマコがここに存在しているのだと示しているようでなんだかホッとする。
風呂まで連れてったらそのあとはどうしよう。
まずおばさんに連絡しようか。きっとどんなに奇妙な事でも彼女なら受け入れることだろう。
再会を想像し嬉しくなって口はしに笑みを浮かべる。
何をするにも、とりあえず戸を閉めよう。
そう思って手を伸ばしながらも視線が床から外せない。
……あれ、なんで。
俺とマコの他に、もう1人分の影があった。
今まさに家へ入ってくるように、1歩。
足の次は胴体が。
何者かが入ってこようとしている。
急いで戸を閉めると音に驚いたようにマコが振り返った。
「どうしたの?」
「……なんでもない。とりあえず中上がってろよ」
答えてからもう1度戸に向き直る。
ガラスの向こうに立つ影は、踏み入れた足をこちら側に残したままだ。
そのままジリジリとかすかにだがこちらへ近づいてきている気がする。
「ミキちゃん?」
――どうしてドアを開けてはいけないのか。
どうして誰も教えてくれないのか。
黒い腕が、ガラスなんて無視して伸びてきた。
俺を無視して進みそうなそれに手を差し出した。
黒い腕は俺の手を掴み、そのまま外へと出て行こうとする。
代わりに連れていかれれば、マコは戻ってこられるという事なんだろうか。
俺はマコを、守らなきゃいけない。
「ミキちゃん?……どこ?」
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