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俺の住む町には、怪談話のような言い伝えがある。
夏になると夜、死んだ人が家を訪ねてくるという。
外は真っ暗なのにドアや窓のガラス越しには曖昧な、しかし誰なのかはわかる程に暗闇から浮かび上がった姿が見えるそうだ。
そしてよく知った声が呼んでくる。ここを開けてと。
「どんなに好きな人だったとしても、絶対にドアを開けちゃいけないよ」
初めてその話を聞かされた時はおびえもしたけれど、結局は子供を早く寝かせるためのホラ話なのだろう。と、ませていた俺は信じこみ怖さを紛らわせていた。
本当だったと知ったのはそれから数年後、9歳の時のことだ。
近所に住む幼馴染のマコの父親が亡くなったその年の夏、なぜか数日マコが俺の家に預けられることになった。
「ミキちゃん、マコのことお願いね」
おばさん――マコの母親が俺に言った。
ちなみに俺の名前は幹也(みきや)だけれど小さい頃からの知り合いには愛称としてミキと呼ばれることがある。
同じように略して呼ばれているマコと2人合わせたときのパチモンのようだけどしっくりくる気もする語感の良さも、お互いそう呼ばれる理由のひとつになっていそうだ。
特に出かけるわけでもなく何か特別なことをする訳でもないのにどうしてウチに泊まるんだろう。
泊まること自体は、つまり一日中遊べるということなので嬉しかった。
けれどその理由がわからないことに少し不安を感じていた。
「いい?夜に誰が来ても絶対中に入れちゃダメだからね?ミキちゃん、マコちゃんとずっと一緒にいてあげて?」
一緒にウチまで送りに来ていたマコのおばあちゃんが、離れちゃダメよ。と念押しをしてきた。
そうして俺はたまに聞かされる“あの話”を思い出す。
まさか。
おじさんがマコやおばさんに会いに来るから。
それが理由なんてある訳ない。
第一、会いに来たからってどうなるんだ。ドアを開けなければいいだけじゃないか。
けど、もし。俺の父さんがそうだったら、死んでて会いに来たなら。
呼ばれたら俺は開けてしまうかもしれない。母さんだって。
だからマコとおばさんはそれぞれ、誰かにドアを開けないよう見ていてもらうんだろうか。
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