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「マコ、中に入れて?」
穏やかな声色で喋りながら、手はガシャンガシャンと戸の木枠を揺らす。
「釣りに連れて行ってやらなかったから怒ってるのか?次は一緒に行こう。ね?」
……おじさんは夜釣りに出かけ、そのまま戻らなかった。
帰ってきたおじさんの顔をマコが見る事はなかった。もちろん俺もだ。
だから実感が足らないのかもしれないけれど、でも亡くなったのは確かなことだ。
こんな風に帰ってくる事なんて無い。
「お父さん」
マコの手が玄関の方へ伸ばされる。
それだけで済むよう、俺はより腕へ力を籠める。
「ただいま、マコ」
「お、」
おかえりと言おうとするマコの口を片方の手でふさぐ。
そもそも、おかしい。
なんで俺の家に帰ってくるんだ。
「おじさん、ここは俺んちだよ。おじさんの家じゃないよ」
どうしてうちに来たんだ。マコがいるからだろうか。そうに決まっているだろうけど。
でもここはマコんちじゃないんだから。とにかく戸は開けさせない。
……開けたらどうなるのか、そういえば誰にも聞いていない。
よくある話のように連れていかれるんだろうか。
それならなおさら俺はここを開けさせてはならない。マコを連れて行かせはしない。
頼むから消えてくれ、と願いが届いたのか。
それとも家を間違っていることを指摘されたからなのか、声も姿も瞬きした間に消え去っていた。
「ぁ……」
ほっとして力を緩めるとマコの口から小さな声が漏れた。
名残惜しそうではあったけれど、どこかではマコも安心したんだと思う。止めた俺を責めることはなかった。
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