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ジャラリ。
床を鉄で出来た鎖が這うような音が聞こえた。
カーテンから漏れる日差しがうっすらと室内を照らし、そんな薄明かりの中で、ソレは微動だにせず主人の帰りを待ち続ける。
ジャラリ。
また鎖が這うような音。
いな、その手と足に繋がれているのは、紛れもなく鎖だった。
ジャラリ。
ジャラリ。
少女の姿のように見えるソレは、玄関のドアノブが音を立てた途端、ダラリと転がしていた身体を持ち上げた。
床が軋む音と共に部屋へと入ってきた主人の姿。
ジャラリ。
持ち上げた身体と一緒に、鎖が這う。
主人はソレを静かに見下ろし、ソレは歓喜に震えニタリと笑った。
主人が差し出した手を、重い鎖をひきづりながら捕まえて。
少女のようなソレは甘く甘く吐息をこぼす。
「おかえりなさい」
主人は彼女に言葉を返さず。
ただひたすらに静寂を保った。
ベッドの脇に転がる猫の死骸を見つめ、またひとつ、彼女の腕に鎖を繋ぐ。
その重さを愛しげに見つめる彼女は。
まるで幼い子供のように、無邪気に鈴を鳴らすように笑い転げた。
甘く、甘く。
ニタリと微笑む。
ジャラリ。
生気を失くした主人の隣で、彼女はひたすら幸せそうに笑っていた。
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