ドール

2/2
前へ
/2ページ
次へ
ジャラリ。 床を鉄で出来た鎖が這うような音が聞こえた。 カーテンから漏れる日差しがうっすらと室内を照らし、そんな薄明かりの中で、ソレは微動だにせず主人の帰りを待ち続ける。 ジャラリ。 また鎖が這うような音。 いな、その手と足に繋がれているのは、紛れもなく鎖だった。 ジャラリ。 ジャラリ。 少女の姿のように見えるソレは、玄関のドアノブが音を立てた途端、ダラリと転がしていた身体を持ち上げた。 床が軋む音と共に部屋へと入ってきた主人の姿。 ジャラリ。 持ち上げた身体と一緒に、鎖が這う。 主人はソレを静かに見下ろし、ソレは歓喜に震えニタリと笑った。 主人が差し出した手を、重い鎖をひきづりながら捕まえて。 少女のようなソレは甘く甘く吐息をこぼす。 「おかえりなさい」 主人は彼女に言葉を返さず。 ただひたすらに静寂を保った。 ベッドの脇に転がる猫の死骸を見つめ、またひとつ、彼女の腕に鎖を繋ぐ。 その重さを愛しげに見つめる彼女は。 まるで幼い子供のように、無邪気に鈴を鳴らすように笑い転げた。 甘く、甘く。 ニタリと微笑む。 ジャラリ。 生気を失くした主人の隣で、彼女はひたすら幸せそうに笑っていた。  
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加