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昼休み、俺はチャイムの音と同時に席を立ちCクラスへと足を運んだ。 ざわめく教室の中で、入り口の近くに居た女子生徒に声をかける。 その子に佐々木を呼んでもらうと、声をかけられた本人である佐々木は見るからに狼狽えたような表情を見せた。 「な、何」 俺の目の前まで来た佐々木は、どこか警戒でもするみたいに何をしに来たんだと俺に問いかけてくる。 突然の呼び出しに余程驚いているんだろう。その声には、困惑の色が強く滲んでいる。 「ああ。佐々木、昨日本を借りていっただろう」 「本……確かに借りたけど。なんだ、用件ってそれか」 俺の言葉に、どこか安堵の表情を見せて肩の力を抜いた佐々木。 まあ、わざわざ昼休みに来たんだ。もっと重要な事かと思ったに違いない。 だがしかし俺にとってはとても重要な事だ。 「貸し出しカード」 「は?」 「本を借りる時に書かないといけないんだ。昨日書いてないだろうう」 「あー……書いてねえな」 借りていく時にカウンターで記入して貸し出しの判を押してもらい、返しに来た時にもう一度カウンターにそのカードを見せて返却の判を押してもらうというのが利用者のルールだ。 それをきちんと行わないと、管理不行き届きとなってしまう。 任された手前、俺はそれをおざなりにする訳にはいかない。 そう伝えると、佐々木はじゃあ今本持ってるからと言って自分の席へ戻ろうとした。 それを、待てという言葉で引き止める。 「今持ってても意味はないぞ。印鑑は図書室で管理されてるから」 「え?」 「だから、放課後その本を持って図書室に来いってこと」 俺の言葉に、先程同様佐々木が困惑の表情を見せる。 でも、自分で撒いた種だから諦めてもらうしかない。 俺が貸し出しカードを書いていかなかったお前が悪いと言えば、目を少しだけ見開いた後、バツが悪そうに頭をかきながら佐々木がごめんと一言呟いた。 なんだ、意外と素直なんじゃん。
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