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何をしても起きないからと、とりあえず隆太の髪の毛を指で弄ぶ。 照明に照らされて光る前髪を掻き分けて、露わになった隆太の顔をそっと覗き込んだ。 相変わらず、睫毛が長い。 見慣れてる筈なのに、隆太の寝顔に少しだけ鼓動が速くなる。 俺の指先は自然と隆太の唇へと伸びて行き、柔らかい感触に触れた。 ふに、ふにっと何度か押してみて、今日キスをしていない事を思い出す。 もし、隆太が好きな人に告白して。 相手も隆太が好きで、二人が恋人同士になったら。 今以上に会えなくなるのか。 もう、キスもしなくなるんじゃないのか。 そんな考えが、一瞬で頭を駆け巡る。 きっと恋人が出来たら恋人優先になるに決まってる。 もうこんな風に泊まりに来たりとか、キス、したりとか出来なくなるんだろう。 それはちょっと、いや、かなり嫌かも知れない。 この日常が、日常じゃなくなるなんて。 そんなの嫌だ。 取られたくない。 奪われたくない。 誰にも。 かけていた眼鏡を外して、枕元に置く。 まだ乾いていない髪の毛からは、ぽたりぽたりと雫が滴り落ちて床に吸い込まれていった。 きっと、俺は今凄く酷い顔をしているんだろう。 だって、こんなにも、息苦しい。
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