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無意識に身体を強張らせる俺の耳に、少しの間を置いて掠れた声が届く。 反射的にギュッと目を瞑るも、その言葉は俺の予想とは全く違うものだった。 「あれ……太一…………夢?」 「…………え?」 耳に入ってきた言葉の意味が直ぐに理解出来ず、俺は疑問符を浮かべた。 今、夢って、言ったのか。 夢、だなんて、隆太は寝ぼけてるのか。もしかして、起きてなかったりする、のか。 隆太の顔の前に、手をかざしてみる。隆太は特に反応らしい反応を見せない。 大丈夫、なのか。 もしかしたら、さっきのキスも認識してないのかも知れない。起き上がる気配すらない事からも、寝ぼけている可能性は高い。 瞬間、俺は心の底から安堵し、深い溜息を吐く。 よかった。この様子なら、さっきのは気付かれてない、よな。 再度確認するように、この現実を夢だと思っている様子の隆太にもう一度視線を向ける。隆太は未だ定まらない視点を彷徨わせながら、俺の方に手を伸ばしてきた。 身体の力を緩めてされるがまま隆太の行動を目で追えば、細い指先が俺の髪に触れ頭の後ろ側に回された。 そのまま隆太の方へと引き寄せられて、再び近付いた距離。 それは刹那の時間だった。 離れた筈の唇同士が、また。
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