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チャイムの音を聞いて、俺は次に借りる予定で棚から持ってきた小説に栞を挟む。 今日は俺と佐々木しかここには来ていない。 徐に佐々木に視線を向けたら、集中しているのかチャイムの音すら聞こえていないみたいだった。 でももう鍵を職員室に戻さなければ。そう思った俺は佐々木の肩を叩く。 「……佐々木、時間」 「あ?」 「だから、時間。もうここ閉めるんだけど」 ああ。と言って佐々木は読んでいた本から貸し出しカードを取り出す。 「これも借りていく。推理ものとかあんま読んだ事がなかったけど、結構面白い」 少しだけ笑みを見せた佐々木に目を見張る。 笑った顔、初めて見た気がする。 こんな柔らかい表情出来るなら、いつもしていたらいいのに。 追加の貸し出しカードを受け取って、本のタイトルを見て更に驚く。この本は、俺も好きな作者の作品だ。 「この本面白いと思うなら、別の作品もお勧めするよ。良いのがあるんだ」 「へー」 「まあ、気が向いたら声かけて」 カウンターでカードに判を押して、佐々木にカードを渡す。ただそれだけの行為なのに、何故か佐々木の顔が近くにあった。 「……んっ」 触れるだけのキス。 なんか、この間よりも感触が鮮明だ。 ああ、二回目だからか一回目よりも冷静な自分が居る。 なんか、マシュマロみたいな柔らかさ。あんまり食べないけど。 でも例えるならそんな感じ。 触れていた唇はゆっくりと離れていき、呼吸を忘れた俺はまず息を吸い込んだ。 「……抵抗とか、しないのか」 不意に耳に届いた声は少し震えている様にも感じたけど、これもきっとカードに印鑑を押したお礼とかそういった類のものなのだろうと確信した俺は 「別に、減らないしな」 とだけ言って、佐々木よりも先に図書室を出た。
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