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勉強を始めてからずっと、俺は隆太の事を意識し続けていた。 この部屋に居ると、否が応でも思い出す。夜の事を。 そのせいで、さっきから教科書の内容が全然頭に入ってこない。 リビングでしようって言えばよかったなと、勉強し始めてから思った。 どうしよう。勉強どころじゃない。 ダメだ。触れたら余計、夜の事を思い出してしまった。頭の中が、一瞬にしてその事でいっぱいになる。 ただでさえ英単語が頭に入ってこないっていうのに、これ以上俺に、どうしろっていうんだ。 「太一」 「なに」 「……あー、えっと、集中力切れた」 「じゃあ、ちょっと休憩しようか」 「…………太一」 「なに」 「なんか、それ、やめて」 ぶっきら棒にそう言った隆太は、顔どころか、耳まで真っ赤にしていた。その表情は、拗ねてるようでいて、焦れてるようでもあって。 それって、何。と、俺が疑問に思ったのがわかったのか、隆太が目線を横に逸らして、ぼそりと呟いた。 「さっきから、チラチラ見てくんのとか。唇、触ってんのとか」 「唇……って」 「さっきから指で触ってんの、気付いてねえの」 そう指摘されて、自分の行動を思い出す。でも、全然そんな事をした記憶はない。 だって、自分の唇を触るなんて。そんなのまるで。 「……なんか、その顔、キスして欲しいって言ってるみてえ」 まるで、キスがしたくて、堪らないって言ってるみたいじゃん。 そう思うのと同時に、隆太がそれを言葉にした。
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