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出来上がった文化祭のポスターを一年の実行委員に渡し、今日の見回りも終えていた俺は、文化祭準備中実行委員が使用している会議室を出た。 たまにはクラスの手伝いをしようかと思ったが、喫茶店だから前準備はあまりなく、衣装は女子生徒達が持って帰っているので手伝える事は無さそうだった。 急に手が空き戸惑うも、時間があるならばと、俺は何名かのクラスメイトと挨拶を交わし教室を後にする。 そのまま廊下を歩き、職員室へ向かう。鍵を借りて向かうのは、いつもの場所。 室内に入った瞬間、一週間以上閉め切っていたせいか、埃っぽさと古びた本の匂いが鼻を掠めた。 先ずは窓を開けて、次に俺が向かったのはカウンター内の所定の席ではなく、隆太がいつも座ってる席だった。 カウンターの目の前の席。 俺はそこに座って、何気なく机に頬を寄せる。 何一つ変わらない机と棚の配置。 だけど座る位置が変わるだけで、通い慣れた場所なのにこんなにも新鮮に感じる。 これが、いつも隆太が見てる景色。 隆太はいつもここに座り、その瞳に、俺をどんな風に映しているんだろう。何を思ってくれてるんだろう。 ここに座れば、何かわかるような気がした。隆太の心に、ほんの少しでも、触れてみたかった。 独りぼっちの室内は、驚く程静か。寂しいと、胸が切なく疼く。 隆太の優しさに触れたい。この手に、確かな熱を感じたい。 会いたい。 俺は携帯電話をポケットから取り出した。 緊張からか、小刻みに震える手。 震える左手で同じく震える右手を押さえながら、隆太宛にメールを送る。恐る恐る送信ボタンを押して、はーっと深く息を吐き出した。 今日の文化祭準備が終わったら連絡してっていう、簡単な内容のメールを送った。 返信は直ぐに返って来ないだろうとわかってても、やっぱり返事は待ち遠しく、何度も何度も携帯電話の画面を確認してしまう。 指折り数える体感時間は、驚く程長かった。
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