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かれこれ一時間程経っただろうか。外を見れば既に辺りは暗くなりつつあり、開けていた窓からほんのり冷たい風が入ってきた。 不意に、遠くの方で、音が聞こえた。 その音は瞬く間に大きくなり、次の瞬間、ガラッという強い音にかき消された。 「……っは、悪りいっ……マジで遅くなった」 勢いよく開けられたドア。そしてその向こう側に立つ、想い人。 その姿を捉えると同時に、心臓が一度大きく跳ねた。 俺はカウンターから出て、ドアの方へ近寄る。 隆太は、未だにドアの向こう側に居て、一向に入って来ようとしなかった。 俺はとりあえず、隆太の様子を伺う。 隆太は息を切らしているのか、肩で呼吸をしていた。そのまま制服の裾で額に滲む汗を拭って、中に着ているTシャツをパタパタとさせて。 その行動はまるで、ここまでの距離を全力疾走でもしてきたみたいに。 「もしかして、走ってきた?」 「っだって、太一があんなメール寄越すなんて、珍しいからっ……」 荒い呼吸をそのままに、そう言葉を紡いだ。下から見上げてくる隆太は、嬉しい、と言わんばかりの笑顔を見せて。 その笑顔を見た瞬間、俺の胸はこれでもかってくらい強く締め付けられた。骨も皮膚も何もかもをすっ飛ばして、心に直接攻撃してきた。 別の表現をするならば、ハートに矢が突き刺さったみたいな、そんな感覚に見舞われた。 完全に、油断してた。 こんな状況想定してなかったから、油断してた心にその笑顔の破壊力はとてつもない。 攻撃力高過ぎて、会ったら先ず何を話そうかとか沢山考えてた筈なのに、全て頭からふっ飛んでしまった。
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