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俺が佐々木の持ってきた本の貸し出しカードに判を押していると、何故か佐々木はカウンター前から動かずこちらを見つめていた。
その視線に気付いた俺が訝しげると、俺の疑問に答えるように佐々木が口を開く。
「なあ、なんかオススメってのがあるんだろ。借りていくから教えろよ」
「ああ、憶えてたのか。あるよ、ちょっと待っててな」
どうやら、先週俺が言った言葉を憶えていてくれたらしい。
今日返しに来た本が面白かったなら、別の本もお勧めすると。
俺は戻ってきた本をついでに戻して、新しい本を一冊だけ棚から引き出した。
勿論お勧めはこの一冊だけじゃないけど、とりあえず一つずつ。
同じ作者の、推理小説。これも是非読んで欲しい。
「はい、これも読んでみて。読んだらまた感想聞かせてよ」
「ああ、さんきゅ」
俺から本を受け取った佐々木は、その本の表紙と裏表紙を交互に見て頷いた。
気に入ってくれるといいんだけど。
なんて思ってるうちに、また、キスされてた。
「……ん、」
今度も、お礼のつもりか。
今回のキスは、一度目とも二度目とも少し違う。
ふわりと、優しく触れるキスじゃない。
力強く、押し当てられた唇。伏せられた瞼。
長いまつ毛が俺の眼鏡にかかって、至近距離にある綺麗な顔にほんの少し、ドキッとした。
誰しも、こんな近かったら驚く。
あと、強く押し当てられてるのに。
やっぱり、柔らかい。
触れていた時間は短いのに、俺の感じた時間はまるでスローモーションのように長かった。
「……佐々木」
「なに」
「…………いや、なんでもない」
俺は、無意識のうちに佐々木に声をかけようとしていた。
なんでお礼がキスなんだとか、何の為にキスをするのかとか、素朴な疑問が浮かんでは消えていく。
一回目、二回目まではまあ……あまり考えなかったけど、流石に三回目ともなると少しは考えないといけないかも知れない。
けど、キスをした後の佐々木があまりにも普通だったから結局何も聞けないままで。
まあ、いっか。なんて思いながら指で眼鏡を押し上げた。
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