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油絵やB1パネルが壁に飾られ、多くの一般客で賑わいを見せる教室内。 人の出入りも多いこの部屋で、何故か俺の目にはただ一人しか映ってはいなかった。 その人物も俺に気付いたのか、隣に居たもう一人に話しかけた後でこちらに向かって足早でかけてくる。 「隆太」 「よお。見回りか」 「うん。隆太は美術部の絵を見に来たの?」 「まあ、そんなとこ」 人を掻き分けて俺の元にやって来た太一。制服の左腕には、実行委員の腕章が付けられている。 見回り中の太一はこの部屋の見回りが丁度終わったらしく、バインダーを片手に次はもう一つ上の階の手芸部の作品が展示してある教室に行くのだと笑った。 太一と会えたのは、本当に偶然。 前に太一は当日の役割分担で別館の見回り担当だって言ってた気もするが、それでもこんな広い校舎の中で会えたんだ。 やっぱ、嬉しいだろ。 太一はもう一人の実行委員の女子とニ人でこの校舎を任されているみたいで、俺と話している間も待たせているに違いない。 その証拠に太一はチラリと付けている腕時計に視線を向けて、一度大きく頷いた。 きっと、もう行く時間なんだろう。 俺は邪魔にならないように頑張れよとだけ伝えて教室から出ようとする。けど、何故か後ろに居る太一に腕を掴まれて。 身体を軽く後ろへと引かれ、いきなりの事でバランスを崩しかけるもそれを何とか堪えて振り返れば、眼鏡越しに漆黒の瞳と視線が交わった。 「ちょっと待って、隆太。今少しだけ時間あるかな」
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