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「ちょ、おいっ……どこ行く気だ」 「うん。もうちょっと待って」 「もう一人の奴、待たせてんじゃっ……」 「大丈夫。先に行っててって伝えてあるから。それに彼女も他の人と話してたし」 太一は俺の手を引いて、何故か上の階ではなく下の階に向かって階段を降りて行く。 別館の1階は特に何も行われておらず、展示は2階より上の階でしか開かれていないから途中で通りすがる人もあまりいない。 案の定、1階にたどり着いても廊下を歩く人は疎らだった。 何もないこんな所に連れて来てどうするんだと聞こうとするも、尚も太一は何も言わずに俺の腕を引っ張るから話す暇なく着いて行く。 太一はキョロキョロと辺りを見回した後、廊下からは見えない階段下の死角に俺を押し込んだ。 「太一、なにっ……」 「静かに」 「ん、むっ……!」 唐突に背中に襲い来る冷たい感触。いきなり壁に追いやられて、俺は焦ったように声を上げる。 しかし何をするんだと紡がれる筈だった言葉は、途中で太一の言葉と行動に遮られてしまった。 俺の視界は、太一の影で覆われる。 太一は俺の耳元で静かにと言うと、有無を言わさず俺の唇を奪ってきた。 それはあまりにも唐突で、いきなり唇に触れた柔らかい感触に身体がビクッと反応する。 「んっ……ん、……」 壁に肩を押さえ付けられて、身動きが取れない。 いつの間にか俺の身体は太一の身体と密着していて、耳元で大きく鳴り響く心臓の音は、はたして俺だけのものなんだろうかと思考の片隅で思った。 太一は何度も角度を変えて短いキスと長いキスを交互に繰り返し、俺をどんどん追い詰めていく。いや、勝手に追い詰められてんのは俺なんだけど。
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