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文化祭二日目は、毎年恒例のミスコンや芸能人を呼んでのプチライブで一日目よりも更に盛り上がっていた。 クラスの、特に男子は、二日目の夜に行われるキャンプファイヤーが始まるのを今か今かと待ち望んで浮き足立っている。 皆、好きな女子を誘ったり他のクラスの女子をナンパしたり。 俺も一緒にナンパしに行こうって誘われたけど、面倒だなんて言い訳をして断った。 だって、俺が一緒に居たいのは太一だけだし。 校内にはキャンプファイヤーの開始を告げるアナウンスが響き渡り、窓の外を見ればまだ夕方にも関わらず空は真っ暗だ。 本来キャンプファイヤーは殆どの生徒が参加する筈だが、教室を出た俺はそれに参加する事なく真っ先に職員室へと向かった。 職員室で、忘れ物をしたからと言って第二図書室の鍵を借りてそのままポケットに突っ込む。 とぼとぼと誰も居ない別館の階段を登り、辿り着いたいつもの場所。 鍵を開けて中へ入った俺は携帯電話の光を頼りに電気のスイッチを押す。 明るくなった部屋を見回して、何だかとても懐かしい気分にさせられた。 前に来てから、そんなに日は経っていないのに。 何ら変わらない景色。 変わらない、古い本の匂いに少しだけ口角を上げた。 外では賑やかな声が飛び交っている筈なのに、何故かここにあるのは静寂だけ。 徐にカウンターへ視線を向ければ、太一の座ってる姿が直ぐにでも思い浮かんでしまう。 それ程までに、目に焼き付いて離れない光景がそこには存在していた。 小説を読むその姿に、バカみたいにこっち向けって視線を送ったりして。 それで太一がこっちを向いたら向いたで、俺は直ぐに視線を外してた。 そんな自分を思い出して苦笑しつつ、俺はいつもの所定の位置に座った。 いつも使っていた机を、右手でそっと撫でる。 「……早く、来ねえかな」 この待ってる時間すらも、愛おしい。
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