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『お前は、言わねえの。周りに合わせろとか』 『俺は先生じゃないからね。それに、周りと違う事って、一つの個性だと思うよ』 『……変なやつ』 言葉を選んでる様子はない。 あまりにごく自然に言うから、マジで驚いた。本当に、変な奴だなって思った。 掴み所がねえっつーか、ちょっとズレてるっつーか。無表情なせいか、何考えてんのか全然わかんねえし。何で俺に話しかけてきたのかも、さっぱりだし。 でも、なんか、そいつの言葉がすっげえ頭に残る。 なんか、何もおかしくないって、言われたような気がした。 そういう意味で言われたんじゃないってのは、わかってんだけど。 人と違う事は、個性、なんて。 まるで、俺の公言出来ない性癖すらも、悪い事ではないと言われたみたいだった。 人と違ってもおかしくないんだと言われた気がした。 初めて触れた自分とは違う考え方に、俺はただ、どうしようもない気持ちにさせられた。 それは、ほんの些細な会話だった。 そいつとは、それっきり会話らしい会話をする事もなく、友達と呼べる関係にもならなかった。 俺にとっても、ただのクラスメイト。 一度だけ会話した事あるってだけの存在。 それだけだった。 それだけの筈、だった。
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