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第二図書室の鍵を職員室へと戻し、校舎を後にした。他の生徒達はもう皆帰った後で、俺達は少しだけ遅めに帰路に立った。 思いの外図書室を出るのが遅くなってしまったものの、直ぐに駅に向かうのが勿体ないからってわざと遠回りをして帰る。 明日も会えるのはわかってるけど、少しでも長く側に居たくて。 普段歩く事のない道を、いつもより少しだけゆっくりと歩く。 静寂が俺達を包む中、不意に俺の右手に太一の左手が添えられた。 恋人繋ぎという訳ではないけれど、ギュッと手を握り締められる。 「……っここ、往来じゃねえか」 「この時間は人通らないよ」 驚いて咄嗟に隣を向けば、太一がクスクスと笑うのが視界に映る。 そんなに嬉しそうにされると、マジで振りほどけねえ。 「嫌かな?」 「別に、嫌とか言ってねえし」 むしろ、嬉しいに決まってんだろ。 俺は太一の腕を勢いよく引っ張り、太一の唇に強く自分の唇を押し付けた。 勢いに任せたせいか、キスっていう可愛らしいもんじゃなかったけど。なんか、鉄の味したし。 唇を離して、暫くお互い見合って。 お互いにこの状況が恥ずかしくなり、身体がプルプルと震え出す。そして終いには、同時にぶはっと噴き出した。 「ふっ、あははっ……ははっ、何やってんだろうな俺ら」 「はははっ……何これ。すっごく恥ずかしいんだけど」 「顔真っ赤だな」 「隆太程じゃないんじゃない?」 「うっせえよ。お前だって似たようなもんだっつの」 名残り惜しかったけど、やっぱり往来だからと、どちらからともなく手を離す。 一定の距離を保ったまま、駅に続く道を無言で歩いた。本当に一言も喋らない。でも、二人を包む空気が甘ったるくてむず痒い。 ちょっとだけ近付けば、太一の肩と俺の肩がぶつかって。 それだけで、頭から湯気が出てしまいそうなくらい、顔を真っ赤に染め上げた。 やべえ。こんなんじゃ、片想いの時よりも心臓が持たねえよ。 友達の時よりも少しだけ近付いたお互いの距離を見て、人知れずそっと笑みを浮かべた。 これからは、この距離が当たり前になんのかな。そうなれば、良いな。 この何気ない距離感が、凄く嬉しくて愛おしい。 これが恋人同士の距離。 俺と太一の、新しい距離だ。 キス×フレンド END
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