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次の瞬間、佐々木が顔をガバッと勢いよく上げて口を何度か開閉させた。
どうやら何か言いたい事があるみたいだが、中々声には出ない。
そんな佐々木を何も言わずに見守っていると、佐々木は机の上に置いてある自分のカバンの中からある物を取り出して、俺の前に差し出した。
「じゃあ……連絡先、教えろよ。場所とか時間とか、連絡したいし」
佐々木の手に持たれていたのは、紛れもなく携帯電話だ。
この学校はそこまで校則がキツくないから、携帯電話の持ち込みは可能。授業中以外ならば使っても問題ない。
そしてその携帯電話を差し出されたのと、佐々木の言葉でああ、と思い出す。
そう言えば、毎日会っていたから番号を聞いていない事にすら気が付かなかったなと、現状を理解すると同時に頷いた。
俺も携帯電話を取り出して、お互いに電話番号とメールアドレスを交換する。
二人して交換する事に慣れてないのか、その手は何だかぎこちない。
「風邪、あんまり酷いようなら明日休めよ。ちゃんと治ったら、土曜日の事メールして」
「……だから、風邪じゃねえって……」
「何か言ったか」
「何でもねえ」
何でもないとぶっきらぼうに呟いて、佐々木は携帯電話の画面を見つめながらゆっくりと俯いた。
小さくありがとうと言う声が耳に届く。
それがちょっとだけ、むず痒く感じた。
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