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ちょっとトイレに行ってくると言って近藤が席を立った。 ドアが閉められる音を聞きながら、先程浮かんだ疑問からか、妙に居心地の悪さを覚えた俺は少し俯いた。 佐々木は飴を食べて落ち着いたのか、また教科書と向き合い勉強を始めた。 俺はというと、この会話の無い空気にどこか居たたまれなさを感じていた。 何かを喋っていないと、さっきの事をまた考えてしまいそうで。 「あー、えっと……佐々木、俺の飴もいるか?俺のはいちごだけど」 「ああ、いる。いちごも好きだし」 ふと、カバンに入れていた飴の存在を思い出して佐々木に声をかける。その声がちょっと震えてたのは、気のせいだと思いたい。 ぎこちない動きで佐々木に手を伸ばし、手の平の上に飴を置いた。 俺の指先が佐々木の手に触れた瞬間聞こえたのは、イスがズレる音。 顔を上げればそこには佐々木の顔があって、目が合ったと同時に訪れる感触。 「んっ………」 ちゅっ、と可愛らしい音と共に机越しに触れるだけのキスをされる。 本当に、瞬き出来ない程一瞬だった。 佐々木はそのままイスに座り直して、またペンを握る。 二人の間には沈黙が流れて。近藤が戻ってくるのと同時に、俺も何事もなかった様に教科書へ視線を移した。 でも内心は、少し、いや、かなり穏やかじゃない。 なんだ、やっぱり飴をあげただけでもキスをしてくるのか。 じゃあもし近藤じゃなくて俺がトイレに行ってたら、その間に佐々木は近藤にキスをしていたんだろうか。 俺じゃなくて、近藤に。 唇に残ったレモンの味が、妙にしょっぱくて。強烈な印象を植え付ける味の強さに、自然と眉を寄せた。 「……なんだ、俺だけじゃないのか」 微かに音になったその言葉は、誰の耳にも届かなかった。
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