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”俺だけじゃない”
そう思うと、なんか胸の奥がざわついて。
勉強する間、佐々木の事も近藤の事も何故か直視出来なくて。
いつもの冷静さなんて、どこにもなかった。
「僕はそろそろ帰るよ。帰ってトレーニングしないと」
そう言って近藤が机の上の筆記用具やノートを片付け始めたのは、ここに来て二時間程経った頃だった。
「もう帰るのか。折角来たんだから、もっとゆっくりして行けばいいのに」
「一日でも欠かすと、その分を取り戻すのが大変なんだよね。その代わり、また来てもいいかな」
「ああ、勿論だ」
近藤は今でも充分に強い選手だが、部活が休みの日でも欠かす事なくトレーニングをしている。今日も恐らく、帰ってから自主練習するんだろう。
ドアに向かう近藤を見送ろうと、俺と佐々木も一緒に席を立つ。前を行く近藤の後ろ姿は、どこか嬉しそうに見えた。
「今日は楽しかったよ。佐々木君ともお話し出来たし」
「ああ。こっちこそ、飴ありがとな。うまかった」
「トレーニングも良いけど程々にしとけよ」
「うん。じゃあ、また明日」
近藤は最後まで、笑顔を絶やす事はなかった。
「俺達も少し休憩するか」
近藤を見送った後、隣に居た佐々木に休憩しようと提案する。俺の言葉に佐々木はうんと言って頷いたが、その視線はまだ近藤が居た場所に向けられていた。
「近藤から、太一って呼ばれてるんだな」
「ん……ああ、まあ」
「……近藤ってさ、案外喋りやすいな。もっと取っ付きにくいと思ってた」
そう言う佐々木の声は、驚く程柔らかい。
「勉強以外の話もしたかったな」
優しい声音で紡がれた言葉は、近藤に向けられた言葉だった。
佐々木が話すのは、さっきからずっと近藤の事ばかり。
近藤は佐々木と話せて嬉しいと言っていて、佐々木は近藤ともっと話がしたいと言う。
友達と友達が仲良くなるのは、俺も嬉しい、筈なのに。
なんだろう。
なんか、胸の辺りがモヤモヤする。
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