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教室へ続く廊下で、Cクラスへと帰っていく佐々木と倉持を見送った。
予鈴は、もう既に鳴ってる。
「あれ、ダーリン入んないの」
「……」
「……太一、どうかした?」
廊下に立ったまま一向に動こうとしない俺が気になったのか、先に教室に入ろうとしていた近藤が戻ってきた。
「なあ……悠」
「……っ、な、に」
近藤は知っている。俺が近藤を悠と呼ぶのはごく稀な事であり、それが真面目な話をしたい時だっていう事を。
「……いや、悪い。呼んでみただけ」
下の名前で呼んでるのが、羨ましいだなんて。
「鍵本」
「……」
「なあ鍵本って」
「…………っ、あ、何」
「いや……だから、鍵本こそ何だよ」
放課後の第二図書室。俺はいつものカウンター内の席、佐々木はカウンターから一番近い席に座って小説を読んでいた。
かれこれ、ここに来てから一時間は経過している。
先程まで珍しく女子生徒が本を探しに来ていたが、何も借りずに出ていった。
図書室で俺達が二人切りになった瞬間、ここぞとばかりに佐々木は俺の名前を呼んだ。
「鍵本、さっきからこっち見てたみたいだから。何かあんじゃねえの」
「……は」
佐々木の言葉に、俺は間抜けにも口を大きく開けて固まった。
俺が見てた、って、佐々木を?なんで?
純粋に、疑問だった。
恐らく無意識だったんだろう。その事に対する自覚はない。
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