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「俺、そんなに見てたか」 「ああ。さっき他の奴が居たから、話しかけるタイミング見計らってんのかと思ってたんだけど」 「あー、いや、ごめん。無意識だった」 「何だそれ」 変なヤツ。そう言わんばかりに小さく笑って、佐々木はまた小説の続きを読み始めた。 俺は無意識に見てた自分が何となく恥ずかしくなって、そっと、そっと本で顔を隠す。 穏やかな風が、目の前の金色を揺らす。今日だって、ここから見える景色は何一つ変わらない。 本の縁をなぞる細い指先。少し猫背気味な背中と、ひたすら真っ直ぐに小説へ注がれる視線。 俺の、日常。 「隆太」 「へっ!?」 「……って、名前さ」 唐突に名前を呼ばれて、酷く驚いたんだろう。狼狽えてるのがここからでもよくわかる。 「太一っていう俺の名前と、同じ漢字が使われてるんだよな」 「あ、そ……う、だな」 俺はまだ、佐々木を下の名前で呼んだ事がない。だからかな。ごく自然に呼んでた倉持が羨ましく感じて。 俺も佐々木の友達なのにって、そんな事を考えてしまった。
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