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「あの……さ、隆太って呼んでもいいか」
「な、に。急に」
「……何となく。隆太って呼びたいなって思ったんだけど」
本当は、何となくじゃないんだけど。
「隆太って呼んでもいい?」
さっきの返答が中々返ってこないから、催促をするようにもう一回。
でもやっぱりその返答は返ってこなくて、代わりにガタッというイスがズレる音がした。次の瞬間にはカウンターの扉が開いて、突然、俺の身体を影が覆い隠す。
覆い被さる様にして立つ佐々木の表情は、どう見ても余裕がありませんって顔で。
「……りゅ、むぐっ!?」
「ちょっと、待てっ……、いいからっ、喋んな」
名前を呼ぼうとしたら、勢いよく口を塞がれた。焦った口調で、焦った表情で。
「んむっ……ちょっ、苦しっ……いきなりなにっ」
「それはこっちのセリフだっ。何で、いきなりっ……!隆太って呼ばれ慣れてねえから、マジで、ちょっとっ……」
「えっ、でも倉持からは呼ばれてただろ」
「お前からは呼ばれ慣れてねえっつのっ……」
勘弁してくれと言わんばかりに、深い溜息を漏らされた。まだ普段の余裕が取り戻せないのか、佐々木は一向にこちらを見ようとしない。
でも嫌がる様子がないのが、酷く嬉しくて。困ったな。調子に乗ってしまう。
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