3

16/28
前へ
/188ページ
次へ
「あの……さ、隆太って呼んでもいいか」 「な、に。急に」 「……何となく。隆太って呼びたいなって思ったんだけど」 本当は、何となくじゃないんだけど。 「隆太って呼んでもいい?」 さっきの返答が中々返ってこないから、催促をするようにもう一回。 でもやっぱりその返答は返ってこなくて、代わりにガタッというイスがズレる音がした。次の瞬間にはカウンターの扉が開いて、突然、俺の身体を影が覆い隠す。 覆い被さる様にして立つ佐々木の表情は、どう見ても余裕がありませんって顔で。 「……りゅ、むぐっ!?」 「ちょっと、待てっ……、いいからっ、喋んな」 名前を呼ぼうとしたら、勢いよく口を塞がれた。焦った口調で、焦った表情で。 「んむっ……ちょっ、苦しっ……いきなりなにっ」 「それはこっちのセリフだっ。何で、いきなりっ……!隆太って呼ばれ慣れてねえから、マジで、ちょっとっ……」 「えっ、でも倉持からは呼ばれてただろ」 「お前からは呼ばれ慣れてねえっつのっ……」 勘弁してくれと言わんばかりに、深い溜息を漏らされた。まだ普段の余裕が取り戻せないのか、佐々木は一向にこちらを見ようとしない。 でも嫌がる様子がないのが、酷く嬉しくて。困ったな。調子に乗ってしまう。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加