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「お礼……って、何だそれ。俺のキスもずっと、そう思ってたのかよ」 「え……っと、そう思ってたんだけど、違ったかな……」 「っ!!」 俺の言葉を聞いた瞬間、隆太の顔が悲痛に歪んだ。 これでもかってくらい眉を寄せて、グッと、何かを堪えるように唇を噛み締めて。 その表情が、今にも泣いてしまいそうに見えて、息が詰まった。 その表情は、お礼以外の意味があったって事なのか。 確かに、何かした覚えもないのに隆太からキスをされる事はあった。でも、それなら何で、隆太は俺にキスをするんだろう。 隆太が悲しげな表情を見せたのはほんの一瞬で、それは直ぐに違うものへと変わった。 「……いや、悪い。何でもねえ」 そう言って、隆太はどこかぎこちない笑顔を見せる。その表情はまるで、平気じゃないのに平気だって言ってるみたいで、余計胸が苦しくなった。 何で、どうして、そんな辛そうなんだ。 そう心の中で思ったところで、答えなど返ってくる筈もない。 視線の先で、隆太が動く。それをスローモーションのように眺めながら、ただただ、俺はその場に立ち尽くしていた。 俺の唇に、隆太の唇が触れた。 いや、掠ったと言うべきか。 それ程までに、小さな感触だった。 微かに触れた唇はカサついてて、そして、僅かに、震えてた。 「こっちこそ、泊まりに来てくれてありがとな。気を付けて帰れよ」 「あ、う、うん……また、明日」 優しい声で、優しい言葉で、見送られた。 しかしまた明日という言葉に返答はなく、次の日隆太はあの場所に来なかった。
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