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「あれ、今日は鍵本一人か」
図書室の鍵を借りに行った職員室で、いつも鍵を貸してくれる先生にそんな事を言われた。
普段鍵を借りに来る時は一人なのにと思ったが、そういえば先週は、ホームルームの終わりが重なったから隆太と一緒に来たんだったと思い出す。
右手に鍵を握り締め、図書室に向かう。その足取りは、少しばかり重かった。
今朝、隆太から一通のメールが届いた。
『悪い。今日は用事あるから行けねー』
約束などしていない。けれどそのメールで、互いの中で放課後図書室で過ごすのが当たり前になっている事に改めて気付いた。
独りなんて、いつ振りだろう。
直ぐに思い出せないくらいには、ずっと、二人で居た。
室内に入って、カウンター内の定位置にカバンを置く。
換気の為に少しだけ窓を開けて、推理小説が並ぶ本棚へ向かった。
数冊を手に持ち、カウンター内のイスに座る。
暫くは、小説を読み耽っていたと思う。今日も、他にここを利用する人は居なかった。
不意に、カウンターから一番近い席に視線を向ける。いつもの姿は、そこにない。
小説のページをめくる音も、帰ろうと問いかけてくる声も、優しく触れるあの感触も。
どれもこれも、今は遠い。
少し前まではこれが普通で、むしろ独りの方が静かでいいとさえ思っていたのに。
寂しい、なんて。
昨日も会ったくせに、こんな事を思うなんて、どうかしてる。
昨日からずっと、目に焼き付いて離れない光景がある。それはもう授業も、他の何もかもが手につかないくらいに、俺の頭の中を占領していた。
「……何でもないって、顔じゃなかっただろ」
その声は、空虚に響く。
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