5

7/26
前へ
/188ページ
次へ
視界に映る隆太は、明らかに怒った様子で。 何をそんなに怒らせたのかわからず戸惑っていると、隆太は俺の方へズカズカとこちらへ歩いてきたかと思えば、いきなり俺に向かって自分のジャージを投げてきた。 「うわっ……、ちょ、なに……」 いきなり覆われた視界と、予期せぬ隆太の行動に焦って声を上げた。 ジャージから顔を出そうともがいたが、運悪くファスナー部分が髪の毛に引っかかってしまい思うように取れない。 「痛っ、ちょっと隆太、これ取って。なんか引っかかってる」 引っかかったファスナーを外してくれと、言っている途中で伸びてきた指。その指が、簡単に引っかかった部分を解いてくれた。 その事にホッとして覆い被さるジャージから顔を出せば、いつの間にか隆太は驚く程近くまで来ていて。 至近距離にある瞳の奥が、一瞬ギラリと光った。気付いた時には、頭は隆太の手によって固定されていた。 「なにっ……んんっ……!!」 逃げる暇も顔を背ける暇も無い程のスピードで、俺達の距離はなくなった。 いつもより数倍強い力。今にも唇を噛み切られてしまいそうな程、押し当てられた唇。 隆太の手と唇に強い力で挟まれた俺は、訳がわからないままその行為を受け入れる。 それは、今までのどのキスよりも余韻の残るキスだった。 「さっさと服着ろよ。じゃねえとまた塞ぐぞ」 「……っそれ、脅しのつもり?」 「いいから」 隆太の口調は、怒ってるというより、どちらかと言えば焦ってるって感じだ。 訳わかんないまま、とりあえず隆太にジャージを返して持ってきてた服をカバンから取り出す。 「隆太は着替えないの」 「……着がえるよ」 どこか疲れた様子で洋服を脱ぐ隆太。それを見ながら思う。普通に脱ぐのか、と。 結局の所、何だったんだろう。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加