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自分の鼓動が驚く程速くて、咄嗟に掴まれてない手で胸を押さえた。
なんか、空気だけじゃない。
俺自身が変だ。
「……じゃあ目、閉じてよ」
勇気を出して、振り絞った声。瞬間、走る緊張。
俺の言葉を聞いて、隆太がゆっくりと目を閉じる。俺もそれを見て、自分の眼鏡を外した。
「……キス、するよ」
伏せられた瞼、長い睫毛。揺れる金色。
閉ざされた唇をそっと親指でなぞれば、小さく身体が震えた。
「…………ん」
角度を変えて、そっと唇を寄せた。隆太の顎に添えた自分の手は、あり得ないくらい震えてる。
キスしたかしてないかわからない程、小さなキス。
唇が掠ったかどうかすらも怪しくなる、もどかしいキス。
それでも、これが今の俺の精一杯。
今まで、俺からする時は、どうしてたっけ。
なんて冴えない頭で考えてもわからなくて。そのまま唇を離すと、目を開いた隆太と視線が交差した。
「……っ、」
「……っ……」
見合った瞬間、急激な羞恥心が襲ってきて、二人同時に口を手で押さえてそっぽを向いた。
顔どころか、互いに耳まで真っ赤。
隆太の顔がまともに見れなくて、口元を押さえる手も一向に外せない。こんな顔、絶対、見せられない。
なんだこれ。
なんだこれ。
お互い顔が合わせられないまま、暫く無言が続いた。治まらない熱だけがぐるぐると身体中を巡る。
先に沈黙を破ったのは隆太の方だった。隆太も恐らくまだ、口元を押さえているんだろう。聞こえてきた声はくぐもっていた。
「……あー、ありがと」
「ど……どう、いたしまして」
会話では必死に平常心を装ってるけど、こんな会話でさえ、なんか、さっきのキスを意識してしまって。
心臓の鼓動が速い。呼吸が上手く出来ない。
キスなんて、もう何度もしてる筈なのに。俺からキスしたのは、これが初めてじゃないのに。
さっきから、なんなんだこれは。
正常な脈拍が、一向に、帰ってこないんだけど。
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