5

15/26
前へ
/188ページ
次へ
自分の鼓動が驚く程速くて、咄嗟に掴まれてない手で胸を押さえた。 なんか、空気だけじゃない。 俺自身が変だ。 「……じゃあ目、閉じてよ」 勇気を出して、振り絞った声。瞬間、走る緊張。 俺の言葉を聞いて、隆太がゆっくりと目を閉じる。俺もそれを見て、自分の眼鏡を外した。 「……キス、するよ」 伏せられた瞼、長い睫毛。揺れる金色。 閉ざされた唇をそっと親指でなぞれば、小さく身体が震えた。 「…………ん」 角度を変えて、そっと唇を寄せた。隆太の顎に添えた自分の手は、あり得ないくらい震えてる。 キスしたかしてないかわからない程、小さなキス。 唇が掠ったかどうかすらも怪しくなる、もどかしいキス。 それでも、これが今の俺の精一杯。 今まで、俺からする時は、どうしてたっけ。 なんて冴えない頭で考えてもわからなくて。そのまま唇を離すと、目を開いた隆太と視線が交差した。 「……っ、」 「……っ……」 見合った瞬間、急激な羞恥心が襲ってきて、二人同時に口を手で押さえてそっぽを向いた。 顔どころか、互いに耳まで真っ赤。 隆太の顔がまともに見れなくて、口元を押さえる手も一向に外せない。こんな顔、絶対、見せられない。 なんだこれ。 なんだこれ。 お互い顔が合わせられないまま、暫く無言が続いた。治まらない熱だけがぐるぐると身体中を巡る。 先に沈黙を破ったのは隆太の方だった。隆太も恐らくまだ、口元を押さえているんだろう。聞こえてきた声はくぐもっていた。 「……あー、ありがと」 「ど……どう、いたしまして」 会話では必死に平常心を装ってるけど、こんな会話でさえ、なんか、さっきのキスを意識してしまって。 心臓の鼓動が速い。呼吸が上手く出来ない。 キスなんて、もう何度もしてる筈なのに。俺からキスしたのは、これが初めてじゃないのに。 さっきから、なんなんだこれは。 正常な脈拍が、一向に、帰ってこないんだけど。  
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加